二十世紀肖像

花粉がうっすら混入している秋の空気を鼻は敏感に感じ取ります。
風は程よく冷たくて気持ち良いというのに、丸ごと美味しくいただけないとは。
という訳で、自分なりにお洒落をしても白いマスクが顔面に光るのであります。
そしてそれは不織布一枚であっても、外界から自分を隠しているので、
よそゆきであって弛緩している…つまり緊張感のほとんどない状態なのでした。


恵比寿写真美術館へ「二十世紀肖像展」を見に行きました。
「全ての写真は、ポートレイトである。」と付けられた副題の通り、
被写体となる人物の存在そのものや、内面までも一枚に映し出されています。
マスクというシェルターがある自分とは違って恐ろしいほどの露出です。
アウグスト・ダンザーの人物写真にはぐっと惹きつけられました。
市井を生きる無名の存在(そんなものは存在しないのだが、社会という眼差しで)
のありのままの姿から滲み出る強かさや美しさは、どんなドラマよりも雄弁です。
この作品に会えてドキュメンタリーという言葉の嫌悪感が少し薄れました。
写真を撮られると魂が吸い取られるなんていう妄言も、
ここでは現実味を帯びてくるから写真って思いのほか力あるものだと思います。
しばらくは弱っている自分をマスクで覆い隠して凌ごうと思います。