マン・レイ展


マン・レイを意識して見たのは私が16歳の時で、
かの有名な「ガラスの涙」に感動したのでした。
父の蔵書で「アングルのバイオリン」を見ていたのはもっと小さい頃で、
何も分からないながらにかっこいい写真だとは思っていたようです。
最終日につるんと滑り込み、国立新美術館へ行って参りました。


この展示ではマン・レイ自身の軌跡と、
モダン・アートの先駆けとして構成されているので作品は多岐に渡ります。
その中でやっぱり私は写真にぐっときました。
ソラリゼーションによるポートレイトは不思議なもやつきと発光です。
それがどうも海月を連想してしまい、
静かな空間で写真をじっと眺めていると私の体も浮いてくる。
水面にうつ伏せになったような気持ちのまま異常な眠気に襲われてしまう。
こんなことは初めての体験でした(ただ眠かっただけかな)。


それからチェスに向ける熱も興味深いものでした。
シュールレアリストのマン・レイに、
チェスというぱきぱきの規格で出来ている物体が手渡されたとき、
さながらトポロジーよろしく歪めて伸ばして面白いものになってゆきます。
巨大な駒でチェスというイメージはしばしばアートの中で出てきますが、
どちらかというと悪夢っぽくて心模様を描いているように感じます。


ある作品に向かうプロセスとして外堀を逐一見せてくれる展示法だったので、
うーん…と首をひねる点も残りますがなかなか楽しめました。
個人的には、アーティスト自身や背景は二の次で、
作り出したものを淡々と並べてくれる展示が好みです。
何を感じ取るか、そこからどう掘り下げるかは観客に任せてくれれば良いです。