みえないちから


先日、ミッドタウン内の緑地帯でぼんやりしていたときのこと。
ベンチの隣りに座ってきた若いサラリーマンがいました。
お昼時だったため彼はお弁当を広げて食べ始めたのですが、
だんだん前かがみになってゆき、しくしく泣き始めたのです。
食べ終えてからも涙が止まらない様子でした。
時折几帳面にアイロンのかかったハンカチで拭うばかりで。
仕事が辛いのかな、入社したてでストレスフルなのかなって、
よっぽど「大丈夫ですか」って声をかけようかと思ったけれど、
今一歩それは出来ませんでした。
お弁当を作ったりハンカチを折りたたむ人が彼にはいる。
もしかしたら自分でしているのかもしれないけど。
それで、心の中で勝手にエールを送りました。
頑張らないで下さいねって。
彼に幸せなことがたくさん舞い降りますように。本当に。


ICCにて、OPEN SPACE2010とみえないちから展へゆきました。
クワクボリョウタの「10番目の感傷」、これが素晴らしかった!
LEDのライトをつけた鉄道模型が薄暗い部屋の中を走ります。
ゴトンゴトンという音とともに、線路の脇に置かれている物が、
影と光のバランスでもって迫りくるこの快感。
本当に電車に乗っているような錯覚に陥ります。
ざるが、洗濯ばさみが、針山が、いかに美しく世界を織り成すか。
本当に感動的で時間を忘れて佇んでしまいます。
とても気に入ったので実は私は既に2回も見に行きました。
2回目はライトが弱ってきていたためか、
前回より柔らかい光になっていてそれもまた淡いひとときでした。
渋谷慶一郎+evalaの「for maria anechoic room version」、
無響室にて360度から音が突き刺さる作品です。
渋谷さんの空間自体を音にする一連のクリエイトは
すごく好きですが、これに関してはあまりぴんと来なかったです。
反響しないために音の動きは機敏に感じ取れるけども、
それが心に響いたかといわれるとそういう訳でもなかったので。


みえないちから展でぐっときたものは、
志水児王の「クライゼンフラスコ」、上の緑の写真です。
回転するクライゼンフラスコにレーザー光線を通過・反射させる。
静かで広い展示室内に様々な波形の光が映し出されるのが、
まるで大きなプールの中に飛び込んで水面を眺めているよう。
めくるめく光の帯に包まれるのが気持ち良かったです。
クライゼンフラスコとは真空蒸留に使用される特殊器具だそうで、
形もクラインの壷みたく摩訶不思議な夢みたいな形でした。
閉館時間までじわじわと形を変えてゆくのに見入ってしまいました。
小金沢建人の「ほこり」は幼い頃を思い出します。
細かな粒子が風に舞っている様子が延々と映る大画面。
あれは吹雪の中歩いて登校した小学校の行き帰りの、
冬の世界に他ならない、私にとっては。
半径1メートルしか見えない情況で黙々と足を動かすしかなく、
集団で進んでいるのに孤立している感覚なのです。
ある意味トリップぽいのになんとも懐かしく感じてしまった。

みえないちからは夢みるちからですね。
写真はICCのHPでお借りしました。