葡萄夜

秋が台風をおまけに、ようやく降り立ったようです。
一週間ほど前からその兆しはあって、いよいよかとワナワナしておりました。
暑さの中でも遥か上にはうろこ雲が広がっていたり、
ふと風が乾いた葉っぱの匂いになっていることに気付いたり。
今年は異様な暑さゆえに、秋が来ることを半分疑ってかかっていたので、
季節がきちんと次の目盛りへ動いたことが嬉しくて何ともいえません。
「夢みたい。涼しいね、素敵だね。」と部屋の窓を開けて一人で喋ってみる。

のっけから不穏な写真ですけれども、秋一歩目は井の頭公園です。
薄暗がりでも蝉が最後の力を振り絞って大合唱なのでした。
ツクツクオーシはやはり夏の残滓に入れておきたいところです。

道を抜けると、雨後でもないのにしっとり濡れたような緑色が広がります。
いかにも柔らかなモスグリーン、すくって食べてみたいです。

こぶこぶの大木の元には、もしや、そろそろ…

どんぐりどんの帽子を多数発見いたしました。
しかし実体は見せず、やつらは一体どこにいるのか分からずじまいです。

青いまま落ちてしまったのは気の急いている子たちでした。

線香花火の残像まで落っこちているとは思いもしなかったです。
私は今年も花火が出来なかったけれど、君に遭遇できて良かったよ。

樹木と夕空のあわいで暗号めいた影を織り成すのでした。
この季節は空が高くて平らに感じられます。
次にうろこ雲を見たら飛び石みたいにつたって跳ねて、遠くへ行きたいです。