頭に花びら千鳥ヶ淵

さてさて、桜が咲いている今この瞬間をあます所なくほおばります。
雨でも風でもなんのその、この日は皇居ぐるりで千鳥ヶ淵へゆきました。
ずどんと太い幹が迫り出していて、元気がもりもり沸いてきます。

平日の九段下なんていうものは、遠い目。
こちらへは大学が近かったので当時まさに庭のように通っていて、
木の下で本を読んだりしていたことを思い出します。
人間同士の交流が苦手で窮していた人間に、桜の花嵐は幽玄でした。
今もそれは変わりませんが、もう少し桜が優しいものに思えてきました。


生きやすくなったという意味でよい事だとは思うけれど、
時々、何か大事なものをなくしたような気になることがあります。
心の表面にある痛点とか温点とか冷点とか、
きっと随分鈍くなってしまっているんだろうと思う。
その現実を突きつけられることが私にとって一番恐怖です。あわー。

曇りの日の桜の色は、柔らかくて、心持ち濃くて、好きです。

緑道からお堀へ向かって枝が垂れ下がりそっくりそのままカーテンです。

繊細な薄桃色もさることながら、若草の緑色もつやつやでおいしそうでした。

ジャンヌ=クロードの芸術作品、みたいな、水面に花びらのこごり。

青いボートがぽつぽつと蠢くのも虫っぽくて(失礼)春らしさ満点です。

桜の花は、幹からじかに咲くという笑っちゃうような逞しさがありますが、
この人は体のそこらじゅうから生まれてしまって水玉模様になっていました。


手をつないで歩くおじいちゃんとおばあちゃん、
突如草笛を高らかに吹き鳴らすおじいちゃん、
頭に桜の花びら乗っけて焼き芋をほおばっている人々、
右手に肉まん左手に一眼レフのおじさん、
いやあ、人は多かったけれどきれいな風景とともに絵になる情景の数々でした。