蜘蛛の巣くぐって下り道

小さな用事で三鷹へ出向いたのでそのまま散歩をしました。
風は肌寒かったのですが、ぽくぽく歩いているうちに温まってきます。
ここ数ヶ月、東京の西の方角に散歩の足を呼び寄せる良いにおいを感じます。
少し前まで野っぱらだったここらの土地土地には、
まっすぐ突き抜けた道路と大きくとってある敷地と空があって、
それ以外はまだ畑や田んぼで立派にお役目を果たしているのでした。


三鷹では、歌を朗々と歌っている人とたくさんすれ違いました。
自転車に乗りながらまたは歩きながら、ご機嫌になってしまう街なのかしら。
まずは武蔵境方向へ線路沿いに歩いてゆきました。

途中、線路を潜って越える地下通路があり、燦然と輝いて手招きしています。
少しひしゃげた形なのがよろしいです。

13階段への荒野に向かうと、
太宰治が気に入っていたといわれる、線路をまたぐ鉄橋なのでした。
ちびっ子とお母さんがお弁当を広げて鉄っちゃん式ピクニックを開催中でした。

足元を電車がひっきりなしに走ります。
あんな小さい鉄の塊に毎朝ぎゅうづめになって運ばれてゆくのか…。
線路は爪の引っかき傷みたいで、金網越しにそれを見ている自分が不思議。

鉄橋の真ん中で出合った物体は一体何かと思ったら、

巨大な時計なのでした、これは誰が見るのかな。
まさか車掌さんじゃあるまいし、車内の人間?ホームにいる人?それとも街の人?


鉄橋から見えた白い変な塔を調べるためにそちらへ歩いて行ったり、
公民館から聴こえるトトロの「さんぽ」の合唱に耳を済ませたりしているうち、

気が付くと農道でありました。
青いネットで縁取られて冬越えの枯れた畝が物悲しい雰囲気です。
でも春がやってきたら新しい作物が育てられるはずの、命のゆりかご。
ニワトリも元気でした。
ちょうど鶏舎に光線が差し込んで、羽を一層ふくふく艶やかに見せてくれました。
私が一歩踏み出すたびに「敵の襲来だ!」ってばたばた跳びまわるのでした。

腹巻き軍団の樹木たちです。
お腹だけじゃ寒いよね、ほんの気持ちの冬衣装だね、これは。
お腹の筵では虫たちもぬくまっているはずだけどそのうち焼かれてしまうのだよ。

ある農家の納屋らしきところ。
朽ちっぷりが見事だったのでついカメラを向けてしまいました。
左の写真は、屋根の崩落と廃材のごみため具合がすさまじいというのに、
中央テーブルに置かれているのは手洗い洗剤の「キレイキレイ」。
前衛アート顔負けだと思って、笑いながら撮りました。
右の写真は、腐る畳のミルフィーユが素晴らしかったです。
そんな中レンブラント光線を受けて輝くのは、パイプ椅子上のファークッション。
そよぐ金色の毛並みを見つめていると、
今にもフリージャズのサックス奏者なんか立っていそうでどきっとしました。


農道を抜けてずんずん進み三鷹通りに出、羊毛でごはんを頂きました。
お腹がくちくなって元気が出たのでまたひたすら歩きます。
大きな道路の賑やかさも時には良いけれど、
やっぱり散歩は裏路地の方が楽しいね。

ほら、こういう錆びた鳥かごみたいな螺旋階段も待っていたりする。
駅をはさみ北へ南へ歩いた後は玉川上水を歩いて吉祥寺へ向かいました。
この時刻には随分日も落ちていましたが、
桜のつぼみが少しほころびているのはしっかと見えました。
春の足音が確実に聞こえました。