井の頭動物園

halujion2010-01-06

いつの間にか帰ってくる場所は東京の方になってしまった。
久しぶりにドアを開け、
白いワンルームのよそよそしい匂いに、
こんな狭い空間で生活をしていたのだったかと
ぎょっとすることもあります。
実家から戻るとしばらくはその窮屈なのが我慢できず、
しばしば公園や緑道で、吸って吐いて呼吸をして、
溜めた酸素を家に持ち帰ります。


ぱりっとした冬晴れ、井の頭動物園へゆきました。
私はいつだってモルモットをなでなでしたい情動に突き動かされています。
ここのモルはつやつやの毛並みと澄んだ眼をしています。
嬉しいとのどを鳴らして摺り寄ってくるのです。
柔らかくて暖かくて優しいから、食べてしまいたいほど可愛いです。
いい子いい子と言いながら頬ずりをしました。
S氏は、隣りでとらのような茶毛のモルにもぐもぐ甘噛みされていました。
やっぱり寅年だからとらのような茶毛のモルの方がうわてで、
食べてしまいたいなどと思う人間を一蹴、現に噛み始めているのだった。
ああ世界平和に必要なのはモルモットの愛らしさとぷりぷりした唇です。


賢者然としたミミズクはとてもかっこよいです。
終始こちらを向いてはくれなかったけれど、佇まいはまっこと大人で、
そこから学べといっているようであった。


鹿の家族の中ではとりわけ小さいのが仲間に守られていました。
それは最近誕生した赤ちゃんということでした。
知り合いにそっくりなのでS氏と大笑いをしました。
表情が鹿離れ、もとい人間離れすらしていて、
同じく天才の冠をかむる知り合いの、醸し出す雰囲気そのものなのでした。
あれはどう譲っても動物の目ではなかったと思うのです。


私が帰京の際乗った電車は、実は夜中、鹿と衝突をしたのでした。
大幅の遅れより何よりも
その鹿がどうなってしまったのかが気になって仕方がない私でした。
今日の哲学者のような子鹿を見てしまっては、
ますますその思いに囚われてしまう。


デカダンな味が滲んでいる熱帯植物の温室もたまらなく好きな場所です。
立ち昇るむっとした臭気は脳をとろかすようで崩れそうになります。
暑い国の鳥の、眼に刺激的な色と造形に気付くたびに、
鸚鵡を肩にとまらせていた北村昌士氏を思い出します。
濃い緑が粘つき生い茂る中に、ふと溢れ出すもろもろがあります。
そんな時間のために動物や植物に会いに行くのかもしれない。


お弁当を食べている間も鳩がくるくると足元を動き回り、
私はまだ檻のうちも外もよく分からない、と思いました。
とにかく生きていかなければ、とだけ思います。