男の子女の子


バレンタインデイが間近になって、
街中にピンクや赤のハートで施された装飾が溢れこぼれている。
デパートの一角で沢山のチョコレートを前にして、ある小さな男の子が言った。
「うわあ可愛い、僕これが欲しいな、誰にあげようか。」
それを聞いた母親らしき人はキンキンした声で即座に、
「何言ってるのあなたは男の子でしょ!」と言い放った。
男の子は別段気にする風もなく、
「ふうん…」とつぶやいて母親に手を引かれて行ったが、
目はずっとチョコレートの山を追ったままだった。


私は男の子の天真爛漫な言葉と、
母親のちょっとドキッとしたのであろう態度に吹き出して、
どちらも可愛らしいなと思った。
どこで聞いたのかバレンタインデイにチョコレートを贈るという習慣を、
君もやってみたいと思ったのだね。
可愛いものを自分のものにするんではなくて誰かに幸せのおすそ分けを。
思考の環が一回り大きくなった君、おめでとう。
そして私は大島弓子の「つるばらつるばら」を思い出したりした。
別にこの日の男の子がそうとは言わないのだけど…、
大島先生の漫画の中では、
少し変わっている人間に対していかに優しく描かれていることか。


異端の十乗が通常になるなら一つまみしてやいのやいの言うのは、変だ。


そういえば大島先生はバレンタインデイも大好きな人である。
その日会った人には男女問わずチョコレートをあげるのだと書いていた。
嬉しそうな顔を見ると体がぽかぽかしてくるって、とてもよく分かる。
指の先までじゅんじゅん血が巡るもの。
そして私も倣って、バレンタイン近くに会った人には大抵、
お菓子をプレゼントするようになったのであります(ただ迷惑にはならないように)。