自然のひと掬い

どんなに雪が美しいものでも、
三日も閉じ込められているとそうも言えなくなってくる。
でも東京に帰ってきて今、
雪はきれいだったなあって身勝手に思う。


年末年始は実家に帰り、ゆったりのんびりと過ごしました。
今思えば良いタイミングに便を予約できて帰れたものです。
30日の夜から雪がしんしん降り始め、
明けて31日にはもう一面銀世界でありました。
全国版ニュースに流れるほどの記録的な豪雪だとかで、
交通麻痺に巻き込まれた人たちはお気の毒でしたが、
変貌した外の景色はちょっと素敵なものでもありました。
私はせっせと雪かきをして、
カニの捌き方を母に習って料理をして過ごしました。


都会とは違って、
まだこちらではお正月は特別感がひしめいています。
空気がぴんと張り詰めているのは、
雪が音を吸うので静かなせいもあるかもしれません。
ストーブの匂いや夜間が湯気を立たせる音、しゅうしゅう。
実家に帰ってくると自ら何か音楽をかける事はしなくなります。
生活音がいつもと違って面白いのでそれに耳を傾けるばかり。
あとは、
数の子の皮を剥いたり湯たんぽを変えたり石油を足したりと、
くるくる動き回っているから閑がないのでした。
じっとするのは寝る前の読書時間くらいです。


大雪は依然としてでん、と居座っています。
計画していた小学生時代の通学路を追体験(散歩)もできず、
少々飽き飽きしてきた頃に年始の挨拶参りへ向かいます。

親戚のお兄ちゃんが、
縁日で捕った金魚の産んだ卵を全て孵化させたらしい。

このおびただしい群れの中に、自然を垣間見る事ができます。
目がなかったりエラがなかったり骨が曲がっていたりと、
奇形の金魚が沢山いるのでした。
「どうしてなの?」と聞いたら、
「選別していない自然のひと掬いとはそういうもんだ」とのこと。
色眼鏡の要らない自然のひと掬いは面白く、
雪よりも美しかったです。
私はせっかくのお酒の席、会話の輪にも加わらず、
ずっと金魚を眺めて過ごしました。