彼岸花 疲れたね

季節の始まりの空は透き通っていてとても綺麗です。
暮れが早いのは物悲しいけれど、
目前に柔らかい紫のグラデーションが広がる帰り道は思わず感嘆です。
空は常に動いていていっときも同じでないからこそ美しいと感じるのかな。
みるみるうちに色彩はトーンダウンしてゆきます。
で、夜の帳が下りるのでした。
お魚を焼く香りがどこからともなく漂い、黒猫がぽてぽて道を横断しています。
鴉はねぐら争いか上で騒ぎ、静かな街にがらがら声が響き渡ります。
このぽつねんとした感じがとてつもなく秋なのでした。

ついこの前、彼岸花を見かけました。
血飛沫みたいで怖いのですぐに目を逸らしてしまいますが、
一年忍んで今年もやってきたかと思うと悪い気はしません。
けれど彼岸花にも「ぽつねん」は纏わりついているようで、
どうも他人とは思えない雰囲気があります。
あんな禍々しい花なのにドキッとしてなんだか気になってしまう。
彼岸花という工藤礼子さん(工藤冬里さんの奥さん)の歌があります。
私が彼岸花に対し、
例えるなら身内だから安心してつんけんするみたいに思っていたのを、
優しいまなざしで包み込んで歌にされている礼子さん。
それはとても儚くて美しくて、涙が出ます。

人間なんて適当なもので、あの酷暑をもはや忘れかけているみたい。
今はきわめて穏やかにのびのび過ごしています。
こうして歩みを止めて旬を胸いっぱいに吸い込む余裕があるし、
それを頭の中で咀嚼して文字に起こしたり出来ています。
とりとめのない一瞬間に思ったことがきちんと広がるのも嬉しいです。
みるみるうちに色彩はトーンダウンしてゆきます。
なぜならば読書欲と睡眠欲のせめぎあいの日々だから。