夜が掴む

窓硝子に真一文字、ひびが入ってから2週間経ちました。
ざらざらした硝子の表面にシャープな切り口があるのは、
見るたびに気が、はっとして、ぴりっとして、しばらく眺めてしまうのでした。
無いべき所に有るものは面白くて、ひびは日々にひびを入れてくれました。


管理会社側からの説明としては、部屋の内外の温度差で歪みが生じたと。
冬で結露も多かったからそんな所だろうと想像はできましたが、
「寒いでしょうけど出来るだけカーテンを閉めないようにして温度差が出ないよう…」
と言われたときは吃驚して、電話ごしに笑ってしまいました。
だって、それはちょっと無理かもしれないなー。


とうとうこの日、硝子交換のため業者の人が部屋に来てくれました。
そして私は夕方の2時間ほど窓硝子が無い時を過ごしたのでした。
隔たりがないと、何だってそこからしのび込んできます。
夜もじわじわ入れば、猫の鳴き声も風もアスファルトの匂いもやって来る。
夜に向かってぽっかり明いている、
窓という穴の淵に腰掛けてみると実に寒いのでした。
雨風を凌ぐ場所を持つことは幸せなことだとしみじみ感じました。
ぴーっと口笛を吹いたら自転車に乗った人がこっちを振り向いたので、
ひらりと部屋の中に隠れて、それ以降はもう吹かなかった。

 
かくしてぴかぴか新品の窓硝子が今、
私の部屋の南側にすました顔して嵌り込んでいます。